渡里ニナのキャラデザについて
みなさんは渡里ニナをご存知だろうか。
今年8月に頒布された、東方Project最新作「東方錦上京」のEXボスである。
このキャラの特徴といえばなんといっても、可愛い見た目とは裏腹に「陰謀論者」であること。
東方Projectというファンタジーな(?)世界に急に陰謀論者が登場したことは大きな衝撃をもたらした。
そんなニナであるが、よくよく見てみるとキャラクターのデザインに様々な要素が詰め込まれていることに気づく。
本記事では、渡里ニナのキャラクターデザインについて筆者の主観を交えつつ考察し、ニナの魅力に迫っていこうと思う。
設定
渡里ニナの種族は、蜃気楼を見せる妖怪、蜃である。
蜃は三月精第3部9話にも登場しており、そちらにおいて説明されていた通り貝の妖怪とされる。
「蜃気楼を見せる程度の能力」というのも蜃の能力そのままである。
一方、陰謀論者であるという設定は、貝類に見られる生物濃縮をモチーフにしていると考えられる。
毒素を持ったプランクトンを食べた貝は、体内に毒素を蓄積させる。そして、毒素が蓄積された貝を人間が食べることで食中毒を引き起こす。これを貝毒という。
様々なものを食べる中で代謝を受けにくい有害物質だけが体内に残留し、ごく小さなプランクトンから貝類、そして人間へと有害物質が蓄積されていく、生物濃縮の代表的なものの一つである。
そして、有象無象の情報の海から真実を謳う偽情報だけを取り入れ、深みにはまっていくのが陰謀論に染まるプロセスであるので、これはまさに生物濃縮の様子そのものである。
つまり、貝の特徴である生物濃縮が情報に対して発生したことでニナは陰謀論に染まってしまったといえる。
種族ゆえの悲しき宿命である。
名前
渡里ニナという名前であるが、こちらにも貝の要素が詰め込まれている。
まず苗字の渡里について、「和漢三才図会」という江戸時代の書籍に、「車螯(わたりがい)が蜃気楼を起こす」という内容の記載があり、そちらに由来するものと考えられる。
ニナという名前は、小さな巻貝の総称である蜷(にな)が由来だと考えられる。蜷は古事記にも使われている由緒ある表現で、俳句に使われる際は春の季語とされる。
また、バテイラという貝をニナと呼ぶことがあり、地方によっては尻高(しったか)と呼ばれることもある。まさに陰謀論者を表すにはうってつけの名前といえよう。
なお、スペイン語でniña(ニーニャ)は女の子を意味する。こちらも渡里ニナを表す単語になっている。
見た目
ニナの見た目としては、白いワンピースにカラフルなフリル、そしてウェーブのかかった金髪のロングヘアが特徴として挙げられる。
このキャラを見て真っ先に連想されるのが、ルネサンスの画家、サンドロ・ボッティチェリの代表作「ヴィーナスの誕生」である。
ホタテ貝の上にいること、髪型、腰のあたりに添えられた左手など、非常に類似点が多い。
ヴィーナスとはローマ神話の女神で、愛と美の女神とされる。
東方Projectにおいては、村紗水蜜のスペルカード『浸水「船底のヴィーナス」』にその名が使われている。
ただ、ニナ自体の元ネタとしてヴィーナスがいるという訳ではなく、あくまでホタテ貝のイメージから採用されたものであると考えられる。
髪飾りにはシャコガイと思われる貝が使用されている。
片方の髪だけ渦を巻いて一周する形になっているが、これは巻貝の身の形によく似ている。
ワンピースの虹色のフリルについては、貝の外套膜の形状を思い起こさせる。また、貝の真珠層は構造色で虹色に見える場合があり、こちらもモチーフになっている可能性がある。
フリルはワンピースをグルグルと取り囲んでおり、こちらも巻貝との類似性を感じさせる。
このように、ニナの外見には貝の要素がこれでもかと散りばめられており、それをここまで綺麗に纏められるのは神主のセンスあってのものだろう。
最後に
陰謀論者というインパクトだけで語られることが多い渡里ニナであるが、詳細に見ていくととても丁寧にデザインされていることがわかる。
しかし錦上京おまけtxtで書かれている通り、ニナはEXステージでの戦いを経て目覚めるのをやめた。
つまり、陰謀論者という1番大きな属性を投げ捨てたということである。
ただし、これはキャラクターの喪失を意味しない。
“真実”に汚染される前の本来の自分を取り戻すことができたからだ。
簡潔で分かりやすい陰謀論から抜け出し、不確定で複雑な事実と向き合う。
そんな彼女の姿には我々も学ぶべき所があると思う。
本来の自分を取り戻したニナが今後どのように行動していくのか、これからの動きに期待したい(マジだよ)。